Netflix『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』続くメディアのヒントは“執念”?

Netflix『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』続くメディアのヒントは“執念”?

2020年代に入ってから『ワシントン・ポスト』『Buzfeed』『Vox Media』『Business Insider』をはじめ、アメリカの印刷・デジタルメディア業界では廃刊・休刊や大規模なリストラが続いています。原因はSNSや動画メディアの隆盛、生成AIの影響やメディアへの不信感などが考えられるでしょう。その中でも長年赤字ながらDXに成功し黒字に転じたとされるのが『ザ・ニューヨーカー(the New Yorker)』。発行部数(有料購読者数)は120万部を超え、広告だけでなく総収益の約65%を読者から得ているとのこと。
Netflix『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』はそんな『ザ・ニューヨーカー』の100周年記念号の制作に密着するドキュメンタリー。

編集長デイヴィッド・レムニックやアート・ディレクターのフランソワーズ・ムーリー、著名な映画ライターのリチャード・ブロディ、ファクトチェック部のメンバーなど多くの人物へのインタビューを通して『ザ・ニューヨーカー』の歴史と現在に迫ります。
なぜ1世紀も続く雑誌になったのか。『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』の監督マーシャル・カリーは「執念だろう」と考えます。
メディアや文章などの表現、デザインにかかわる人はきっと観れば刺激になるはずです。

『ザ・ニューヨーカー』とは?

『ザ・ニューヨーカー』とは?

現在約200人のフルタイムスタッフに140人ほどのライターを抱える『ザ・ニューヨーカー』が創刊されたのは1925年。ハロルド・ロスと妻のジェーンは「洗練された都会人のためのユーモア雑誌」をつくろうとします。独特な書体や洗練されたコラム、風刺漫画などで人気になり、20年後には『ザ・ニューヨーカー』は人気の文芸雑誌に。

ところが戦争(第二次世界大戦)で状況が変わります。
アメリカ政府が日本の原爆被害の写真公開を禁止する状況に『ザ・ニューヨーカー』の若い記者ジョン・ハーシーが疑問を持ち、当時のウィリアム・ショーン副編集長に広島の取材を申し出ます。

爆弾の破壊力についての報道しかない中で、広島の被害者の6人の物語を紡いだハーシーの記事は衝撃的でした。ショーンは掲載号の全ページをこの記事にあて、発売。すると瞬く間に話題になり、世界の放送局でCMを挟まずに朗読されることに。
ハーシーの記事は核兵器の見方を変え、『ザ・ニューヨーカー』を世界レベルの報道の担い手に変えたのでした。

https://www.newyorker.com/magazine/1946/08/31/hiroshima

※今でも閲覧可能になっています。

その後はレイチェル・カーソンの持ち込みを受け、DDT(農薬)による環境問題にフォーカスしていきます。あの有名な『沈黙の春』も『ザ・ニューヨーカー』の連載が元となりました。

https://www.newyorker.com/magazine/1962/06/16/silent-spring-part-1

※こちらも今でも閲覧可能。

カポーティ、サリンジャー、ナボコフ…有名作家を輩出

カポーティ、サリンジャー、ナボコフ…有名作家を輩出
▲個人やエージェントから年間約7,000~1万の作品を受け取り、50編を出版するそうです。

『ザ・ニューヨーカー』は小説などフィクションにも力を入れており、これまでに掲載された作品は13,000以上。

輩出(掲載)した作家もそうそうたる面々です。

  • トルーマン・カポーティ
  • ジョン・アップダイク
  • J・D・サリンジャー
  • ミラン・クンデラ
  • ウラジミール・ナボコフ
  • 村上春樹
    など

ヒース・レジャーやジェイク・ギレンホールの映画『ブロークバック・マウンテン』も『ザ・ニューヨーカー』に掲載された短編が元になっており、ウェス・アンダーソン監督の『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は『ザ・ニューヨーカー』編集部がモデル(主演のビル・マーレイはハロルド・ロスを想定しているとのこと)。
『ザ・ニューヨーカー』の映画や音楽などの批評の評価も高く、文学や映画含めアメリカの文化の一翼を担っています。

風刺のきいた1コマ漫画が特徴。『アダムス・ファミリー』もここから

風刺のきいた1コマ漫画が特徴。『アダムス・ファミリー』もここから

『ザ・ニューヨーカー』を特徴づけるのが、ウィットに富んだ1コマ漫画。長い記事の間に配置され、一息つかせる効果があるようです。
E・フレーク、ザック・ケイニンなど有名漫画家・イラストレーターが『ザ・ニューヨーカー』から生まれていますが、Netflix映画『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』の中で、サラ・ジェシカ・パーカーが「大好き」と語るのが1コマ漫画家のロズ・チャスト。風刺のきいた漫画を描くチャストは1週間ずっとアイデアを描き続けるとのこと(飼っている鳥も『ザ・ニューヨーカー』が好きでついばみ続けるのだとか……)。

毎週1,000単位のイラスト・1コマ漫画を編集長にチェック出し。
▲毎週1,000単位のイラスト・1コマ漫画を編集長にチェック出し。


ロズ・チャストが小さなころ『ザ・ニューヨーカー』を見て憧れたのが、チャールズ・アダムス。アダムスは映画『アダムス・ファミリー』やNetflixシリーズ『ウェンズデー』の原案となった漫画を1930年代から描き続けました。今の世の中だと「暴力的」「非常識」といわれかねない尖った表現も、ユーモアを好む『ザ・ニューヨーカー』の読者だったからこそ受け入れられたのかもしれません。

・関連記事:Netflix『ウェンズデー』シーズン2 パート2考察。事件解決と、新たな謎へ【ネタバレ有】

29人の“ファクトチェック部”が事実を見極め。こだわりのイラスト表紙制作

ファクトチェック部を率いるファーガス・マッキントッシュ氏。
▲ファクトチェック部を率いるファーガス・マッキントッシュ氏。

アメリカを代表する作家の一人トルーマン・カポーティは17歳のころに『ザ・ニューヨーカー』に雑用として雇われます。が、悪行が続きクビに。ただ当時の編集長ウィリアム・ショーンはカポーティの文章力を買っており、その後1959年にカンザス州で起きた一家4人惨殺事件を題材にした小説の連載を許可します。綿密な取材を通してできあがったノンフィクション小説『冷血』は文学史に残る長編小説ですが、同時に事実と虚構があいまいな手法ゆえに(+カポーティの素行もあってか)物議をかもすこととなります。

現在の『ザ・ニューヨーカー』では事実確認が強化されており、Netflix『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』では事実確認(ファクトチェック)部に29人いるという説明がありました。

29人の“ファクトチェック部”が事実を見極め。こだわりのイラスト表紙制作。

さらには5時間にもおよぶ編集者会議では段落ごと1行ずつ読み進め「この単語はもっといい言葉にできないか?」と議論する姿も見られ、さすがにこれには圧倒されました……。

折しも次期大統領選の2024年、当時のトランプ前大統領かハリス候補かハラハラしながらテレビを見守る中、トランプ氏の当選が確定。(週刊ということもあり)どちらが勝った場合の表紙のデザインを用意していたのが印象的でした。

『ザ・ニューヨーカー』のアート・ディレクター(エディター)のフランソワーズ・ムーリー。
▲『ザ・ニューヨーカー』のアート・ディレクター(エディター)のフランソワーズ・ムーリー。

表紙をデザインするアート・ディレクターのフランソワーズ・ムーリーは短い時間とはいえ、表紙をなるべく時間をかけてつくるようにしているとのこと。『ザ・ニューヨーカー』は創刊以来、写真ではなくずっとイラストの表紙をつくり続けており、時代を語りつつ時代を超越し、額に飾れるようなデザインを目指しているそうです。100周年の表紙のデザインも何度も試作を続けていて、事実確認を含め、確かにここには執念が見えます。

「これは運動だ。運動はやめられない」と退職希望を拒否

ウィリアム・ショーンが編集長を務める1985年、コンデナストのサイ・ニューハウス・ジュニアが『ザ・ニューヨーカー』を買収。ショーンは追放され、後任のゴットリーブも退任。ティナ・ブラウンが編集長に就任しました。

現在のティナ・ブラウン。
▲現在のティナ・ブラウン。

ブラウンは、元々セレブニュースやカルチャー情報の『ヴァニティ・フェア』の編集者で、「品格が落ちるのでは」と周囲にいわれながらも、挑戦的なイラストの表紙を掲載したり、エルサルバドル内戦の大虐殺をスクープしたりと「真面目な物を魅力的に(また逆も)」と改革を進めます。

ティナ・ブラウンの後任が、現在のデイヴィッド・レムニック編集長。『ワシントン・ポスト』紙のモスクワ特派員で『レーニンの墓―ソ連帝国最期の日々』(白水社)でピュリツァー賞を受賞した作家でもあります。

『ザ・ニューヨーカー』の編集長、デイヴィッド・レムニック氏。
▲『ザ・ニューヨーカー』の編集長、デイヴィッド・レムニック氏。

レムニックは「人々はバカげた投稿以上の情報を求めている。何が起きているか、だ。公平性や事実確認や良識を求めているんだ。それと権力に屈しないメディアも」と語ります。
創業者のハロルド・ロスは記者に退職希望を伝えられた際、「これは仕事じゃない、運動だ。運動からは退職できない」と拒否したとのこと(今だとパワハラというか、希望者はたまったものではないかもしれませんが……)。
ただ、その精神は今も『ザ・ニューヨーカー』のスタッフに引き継がれており、取材を続け発信するのは運動であり重要な信念である……とレムニックたちは制作を続けています。

雑誌を続けるために、DX・収益化の「執念」

『ザ・ニューヨーカー』はDXに成功したといわれているとおり、Web版を購読してみるとテキストだけでなく音声が同時に聴けるようにしてあったり、動画やPodcastなどいろんな形式でニュースや意見記事が体験できるようになっています。決済手段も豊富でパスキーやワンタイムパスワードでのログインなどセキュリティ面も考慮されていました。
編集長自ら『The Newyorker Radio Hour』に出演するほどPodcastには力を入れており、フィクションのシリーズも用意。
『HIROSHIMA』『沈黙の春』にしても、今でもWebで読めるようになっています。歴史をそのまま活かす取り組みがなされている。

コンデナストの親会社アドバンス・パブリケーションズの傘下に入ってから、地方紙が稼いでいたので雑誌は赤字が許容されていたそうですが、2008年のリーマン・ショックで新聞紙が軒並み苦戦したことで、広告頼りだった『ザ・ニューヨーカー』はサブスクリプション(定期購読)を増やす方針に舵を切ります。 
それまで約25ドルの年間購読料を約160ドルに大幅に値上げしたものに、総部数はむしろ増加したそうです。

まとめ

まとめ。Netflix『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』のマーシャル・カリー監督によれば「逆風であっても政権に立ち向かい、コンマの使い方にこだわる。『ザ・ニューヨーカー』の人々はみな自分の仕事に執着している。

Netflix『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』のマーシャル・カリー監督によれば「逆風であっても政権に立ち向かい、コンマの使い方にこだわる。『ザ・ニューヨーカー』の人々はみな自分の仕事に執着している。危機に瀕している重要な仕事を理解し、称賛してもらいたい。ただ100年を90分で伝えきることは難しい。だからそれぞれの仕事を試食できるチョコレートのサンプルボックスのように紹介した」とのこと。
そして『ザ・ニューヨーカー』がなぜ収益を上げられているのかといえば「インターネットでは無料で手に入らない商品をつくり、人々にお金を払ってもらっているから」。

ユーモアを忘れずに、権力に屈せず事実を追い求める。面白く、品格のある雑誌をつくり続ける。そのために収益手段をきちんと確保する。言うは易く行うは難しで、実践するその「執念」に圧倒されました。それだけに、きちんと読者がついてくるのだなと。

仕事でメディアや発信にかかわる方、表現に携わる方はNetflix『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』ぜひチェックしてみてください。

【Netflixドキュメンタリー『ザ・ニューヨーカー:創刊100周年を迎えて』独占配信中】

・参考
https://www.netflix.com/tudum/articles/the-new-yorker-documentary-release-date-news
https://www.netflix.com/tudum/articles/the-new-yorker-at-100-filmmaker-interview
https://digiday.jp/publishers/new-yorker-plans-double-paid-circulation-2-million/
https://digiday.jp/publishers/the-new-yorkers-david-remnick-readers-dont-want-a-cheaper-dumber-version/
https://www.newyorker.com/culture/q-and-a/how-the-new-yorker-at-100-got-to-netflix#rid=4415a343-aa1f-411c-b24a-d58d10123dfd&q=netflix


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※上記掲載の情報は、取材当時のものです。掲載日以降に内容が変更される場合がございますので、あらかじめご了承ください。