『パルチス: ザ・ドキュメンタリー』スペイン語圏を熱狂させたキッズグループの栄光と影

『パルチス: ザ・ドキュメンタリー』キーアート

1979年にスペインで結成され、メキシコやアルゼンチンなど中南米でも活躍したキッズグループ「パルチス」。日本では馴染みが薄いかもしれないパルチスですが、当時スペイン語圏では社会現象となるほどの人気を巻き起こし、その伝説は現在もなお語り継がれています。2019年7月に配信されたNetflix映画『パルチス: ザ・ドキュメンタリー』は、パルチスがポップシーンに与えた影響について考察するドキュメンタリー。当時の映像にメンバーや関係者たちの証言をまじえながら考察します。この記事ではNetflix映画『パルチス: ザ・ドキュメンタリー』の見どころを紹介します。

スペインの普通の子供たちが突如、大スターに

パルチスは1979年、スペインのレコード会社「ディスコス・ベルター」(以下、ベルター社)がキッズグループの構想を打ち立て、8〜12歳のメンバー募集で集まった男女により結成されました。オリジナルメンバーは、最年長でリーダー格のティノ、すでに芸能活動の経験があったヨランダ、長身でシャイなジェンマ、わんぱくでダンスが上手なダビド、末っ子オスカルの5人。ヴィレッジ・ピープルのヒット曲『In the Navy』のスペイン語版でデビューしたパルチスは、さっそく同年代から熱狂的な指示を獲得し、当初、短期間で終わるはずだった活動は継続的なものに変更されました。その後は映画出演やコンサートツアーも精力的に行い、アルゼンチンやコロンビア、メキシコなど中南米にも進出します。
1981年に家庭の事情でオスカルが脱退すると新メンバーのフランクが加入。順調に活動を続けますが、1983年にティノとダビドが相次いで脱退したことで人気が急落します。新たなメンバーを補充するも立て直しをはかれず、パルチスは1985年に解散しました。
解散後、大半のメンバーは芸能界を引退しますが、カリスマ的な人気を誇ったパルチスの活躍は数々の後進が誕生するきっかけとなりました。

ポップでカラフル。パルチス黄金期のメンバーたち

ティノ・フェルナンデス

イメージカラーは赤。学校で歌っていたところをベルター社のスタッフが発見し、オーディションを経てパルチスの結成メンバーとなりました。グループのリーダー格で幅広い世代の人気を獲得するもソロ活動への意欲を示し、1983年にグループを脱退します。しかし人気は長く続かず、3枚のアルバムをリリースして芸能界を引退。その後、自動車事故で生死をさまよい、左腕を失う重症を負ってしまいます。現在は回復し、ラジオのスポーツ解説者として活動しています。

ヨランダ・ベンチュラ

イメージカラーは黄色。スペインのミュージシャンであるルディ・ベンチュラの娘で、パルチス結成前からすでに芸能活動を行っていました。ティノと並んでボーカルパートの比重が多く、彼の脱退後もジェンマと共にグループを支え続けました。解散後はメキシコに移住し、現在もドラマを中心に俳優として活動しています。

ジェンマ・プラット

イメージカラーは緑。高身長でボーイッシュなルックスが特徴で、フェミニンなヨランダとのコンビネーションがグループの大きな魅力となっていました。シャイな人柄が醸し出す奥ゆかしさも人気の要因となっていました。解散後は芸能界を引退し、幼稚園の経営に従事。現在は事務員として働いています。

ダビド・ムニョス

イメージカラーは白。パルチスきってのわんぱくでダンスが得意。最初は固定のイメージカラーを持っておらず、”すごろく”の意味を持つパルチスにちなんでサイコロを使ったパフォーマンスを担当していました。解散後は経済学を学ぶためスコットランドに移住。現在はアメリカの広告会社で働いています。

オスカル・フェレール

イメージカラーは青。末っ子キャラで人気でしたが、ツアーに帯同した母親が運営への不信を募らせたことが原因で脱退。その後は芸能界を引退し、ジャーナリズムと政治学の学位を取得。現在は通信会社でマーケティングマネージャーの仕事に従事しています。

フランク・ディアス

オスカル脱退後に加入。幼少時から広告モデルとして活動しており、パルチスでは青のイメージカラーを引き継いでいます。もともとパルチスのファンで、加入後は活発な性格で存在感を発揮。解散後はロックバンドのボーカリストとして活動した時期もありましたが、現在は実業家やプロのカメラマンとして事業を展開しています。

『パルチス: ザ・ドキュメンタリー』の見どころ

子供たちの心を捉えたパルチスのパフォーマンス

ベルター社は1977年、ホセ・マリア・イニゴが子供向け番組でキッズタレントのアナと歌った楽曲『Esto es Amor』のヒットに着目。ベビーブームの影響で高まっていた子供向けエンターテインメント需要に応えるべくパルチスを生み出します。
パルチスが子供たちを惹きつけた魅力は、第一にそのキャラクター性。コアなターゲット層を8〜10歳とした場合、年上のカッコいいお兄さんときれいなお姉さん、自分と同年代なやんちゃな男の子、そしてかわいい弟というバリエーション豊かなラインナップは、スター性と同時に、子供たちに「自分も入る余地があるのでは?」という身近さを感じさせました。デビュー当時の映像を見ると、メンバーにはあどけない表情が残っており、本人たちも仕事ではなく遊びの延長でパフォーマンスを楽しんでいた様子が伺えます。
本編中にたびたび登場するパルチスのテーマの他、子供たちにとって身近な題材を歌った楽曲は、一度聴いたら忘れられないキャッチーさ。アニメキャラクターやヒーローとのコラボレーションも多く、『バーバパパ』や、当時スペインで人気があった『ガッチャマン』のテーマ曲を歌っている場面も見られます。これらの楽曲に合わせたダンスもキュートで、見ているだけで楽しくなってきます。

関係者たちの証言で明かされるブームの裏側

ベルター社はパルチスの人気に手応えを感じると本格的に売出しを開始。さまざまなメディアにプロモーションを展開し、人気が加速するとメンバーは多忙な日々に追われるようになっていきます。
本編では、あまりの人気ゆえ子供らしい生活が送れなかったことへのジレンマや、関係者の間で生じたトラブルも赤裸々に語られています。パルチスとその周囲が全てであったメンバーにとって初恋や嫉妬の感情も、メンバー内で交わされていたという証言は青春のほろ苦さも感じさせます。ベルター社の杜撰な金銭管理が後に大問題を引き起こすものの、マネージャーや周囲の大人たちは彼らがストレスなく活動できるようにと最大限のサポートを行ってきました。まともに学校に通えないパルチスのため、ツアーに専任教師を帯同させ、移動の負担を軽減させるためにプライベートジェットを用意するなど、努力を惜しみません。こういった努力もあってか、メンバーが当時の日々を語ってもベルター社に悪い感情を抱いていないのが印象的です。

大人になったメンバーたちの人生が感慨深い

Netflix映画『パルチス: ザ・ドキュメンタリー』では、大人になったメンバーたちが登場し、当時の思い出を振り返ります。50代を迎えた彼らは、当時の面影を残していたり、ワイルドな風貌に変貌していたり、その成長ぶりもさまざま。
ティノがパルチスの中で権力を強め、やがてソロ活動に移行すると彼と他のメンバーの人間関係は悪化。パルチス解散後もその溝が埋まることはありませんでした。メンバーはそれぞれ別の道を歩み交流も途絶えますが、ティノの自動車事故をきっかけに連絡を取り合うようになり、関係も修復します。この和解が後にNetflix映画『パルチス: ザ・ドキュメンタリー』の製作へと繋がっていきました。彼らの言葉からは仲間との絆の素晴らしさを感じさせ、その表情には人生の辛酸を味わったからこそ醸し出せる深みが浮かび上がっています。

まとめ

貴重な映像と関係者たちの証言で構成される『パルチス: ザ・ドキュメンタリー』。荒削りながらも無邪気で一生懸命な彼らの姿からは、1980年代にスペイン語圏の人々を熱狂させた勢いが伝わってきます。本作を通じて、ぜひ当時のパルチスブームを追体験してください。

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