かつてメンタルヘルス問題で棄権した元テニス選手が語る『Untold: 極限のテニスコート』

アスリートのメンタルヘルス問題が近年、クローズアップされるようになってきました。
2021年の東京五輪では、体操のシモーネ・バイルズ選手(米)が精神的ストレスを理由に途中棄権。同年、テニスの全仏オープンを棄権した大坂なおみ選手が、自身のうつ病を告白しました。

Netflixのドキュメンタリー映画『Untold: 極限のテニスコート』は、バイルズ選手や大坂選手以前の2012年にメンタルヘルス問題を告白したテニスプレイヤー、マーディ・フィッシュの苦悩に迫ります。

程度の差はあれど誰でも抱えている心の問題。華やかに見える世界の裏側で選手はどんな葛藤を抱えているのか。元プロテニス選手の森上亜希子さんと一緒に見ていきます。

森上亜希子:元プロテニスプレーヤー。14歳で世界ランキング4位(14歳以下)に。1998年、プロへ転向。2004年アテネ五輪日本代表に選出。2007年WTAツアープラハオープン初優勝(日本人選手8人目)。2009年の引退後はテニスの普及活動、解説者やコメンテーターとして活躍中。

『Untold: 極限のテニスコート』とは

Untold: 極限のテニスコートタイトル

『Untold』シリーズは新聞記事などでは「語られなかった(untold)」スポーツ界の物語を描く、ドキュメンタリー映画。『Untold: 極限のテニスコート』を含め全5作品が配信中。『Untold: 極限のテニスコート』はフィッシュ自身や家族、トレーナー、親友でライバル選手のアンディ・ロディックの証言から、テニス界とメンタルヘルスの問題に迫ります。

マーディ・フィッシュが弱みを見せられなかった理由

「マーディ・フィッシュとは同じ時代に活動していたんです。でも彼のメンタルヘルスの問題は知りませんでした。マーディは才能豊かで、楽しそうにプレイする姿が印象的だっただけに、ショックでした」

森上亜希子

そう語るのは元プロテニス選手の森上亜希子さん。全豪オープンやウィンブルドンに出場し、アテネ五輪では日本代表に選出されました。

「近年、大坂なおみ選手などのテニス選手やアスリートがメンタルヘルスについて発信するようになりました。ただ私やフィッシュ選手の時代は、競技や選手生活の影響を考えて弱みを見せないよう我慢することが多かったように思います」(森上さん)

フィッシュ選手が弱みを見せられなかった理由の1つに、当時のアメリカのテニス界の背景がありました。

アンディ・ロディック・マーディ・フィッシュ
▲左:少年時代のアンディ・ロディック元選手 右:同じ頃のマーディ・フィッシュ元選手

『Untold: 極限のテニスコート』によれば、1980年代はサンプラス、アガシ、マッケンローなどのレジェンド選手が引退し、アメリカテニス界が影響力を失っていた時代。
1988年、USTA(全米テニス協会)はアメリカ全土から優秀な子供を集めての育成を開始。フィッシュや盟友のアンディ・ロディックもUSTAに選ばれた育成選手です。

ロディックとフィッシュは良きライバルとして切磋琢磨していきます。
フィッシュは順調にランクを上げ、スイス、ドバイ、マルセイユ……と世界を駆け回る日々。その中で迎えた2011年の全仏オープンで、フィッシュは異変を感じます。

テニスコートだけが安心できる場所だったのに…

Untold: 極限のテニスコートイメージ

2011年全仏オープン、フランスのジル・シモン選手との3回戦。感情的になってミスを繰り返し、敗れてしまうフィッシュ。控え室のテレビで聞いた、米マッケンロー監督の「お粗末なプレー」という言葉が心につき刺さります。

Untold: 極限のテニスコートイメージ

「勝てば高額な賞金が得られますし、テニス界は一見華やかに見えます。でもテニス選手はとにかく孤独。大坂なおみ選手の記者会見のキャンセルが2021年に大きく報道されましたが、NOと言えない制約がテニス選手には多いんです。大会前のスポンサーとの会食、必ず出なきゃいけないイベント……フェデラーのようなトッププレーヤーでもそれは逃れられません。ただそれゆえにメディアやスポンサーの支えがあって、今のテニス界があるともいえる。その難しさがあります」(森上さん)
 
試合後も動悸が止まらず、心臓の手術を受けたフィッシュですが、不安感は収まりません。翌年の全米オープンに参加しますが、4回戦のフェデラー選手との一戦をついに棄権します。

ステイシー・ガードナー
▲マーディ・フィッシュ元選手の妻、ステイシー・ガードナーさん。

「フィッシュの奥さんが『あなたは戦い続けなくて良いんだよ』と言葉をかけたのが印象的でした。
フィッシュは優勝して『強いアメリカ』を取り戻したかったはずです。全米オープンは一大エンターテイメント。会場はすごい熱気に包まれます。有料チャンネルの視聴者も多く、テニスコートにいる2人の選手は2万人近い観衆の視線を受け続けます」(森上さん)

プレッシャーから逃れられるので逆に「テニスコートだけが安心できる場所だった」フィッシュ。さらにその場所すらも奪われようとしている。
ずっと座るか寝るだけの生活に、頻繁に起こるパニック発作。かなり深刻な不安障害が続きますが、治療や周囲の人々との対話により、フィッシュは徐々に回復していきます。

テニスに戻るきっかけをくれたのは、ライバルで親友のアンディ・ロディックでした。

異例のフィッシュの告白は、後続アスリートの励みになった

現在のアンディ・ロディック
▲現在のアンディ・ロディック元選手。元世界ランク1位になるなど活躍し、2012年にフィッシュより早く引退。

ロディックは根気よくフィッシュとの対話を続けました。2年後、「ダブルスで出よう」というロディックの誘いにフィッシュは応えます。

現在のマーディ・フィッシュ
▲現在のマーディ・フィッシュ元選手。2015年に引退。2019年、アメリカのデビスカップ(国別男子対抗戦)の監督に。

「個人的に『Untold: 極限のテニスコート』で一番注目してほしいのが、このロディックの心遣いです。言葉で『大丈夫だよ』と言うだけではなくて、ダブルスを組んでテニスの楽しみを一緒に取り戻そうとする姿勢。フィッシュにテニスを嫌いになってほしくなかったんだと思うんです」(森上さん)

ロディックとのダブルスを足がかりにテニス界に舞い戻ったフィッシュ。
プロスポーツ選手が心の病気を語る機会を増やそうと、フィッシュは病気の公表を決めます。2015年の全米オープンの初日に不安障害を手記で告白すると、大きな反響がありました。

フィッシュの告白は、後に続くテニス選手、アスリートの励みになっています。
今後のスポーツ界とメンタルヘルスの問題について、森上さんはこう語ります。

森上亜希子

「多くの選手、アスリートが心の問題を抱えていると思うので、こういった公表はどんどん行われていくといいと思います。その告白が、悩みを抱える他の誰かの支えになることもあるでしょう。マーディ・フィッシュは後にデビスカップの監督になりますが、きっと自分の経験を活かした指導ができたはず。
テニス選手やアスリートだけでなくて、誰しもが大なり小なり精神的ストレスを抱えていると思います。仕事や育児、学校。そんなとき『Untold: 極限のテニスコート』は何かしらヒントを与えてくれる作品になるんじゃないでしょうか。少なくとも、弱みを出すことは決して恥ずかしくないと知ってほしいです」

【Netflix映画『Untold: 極限のテニスコート』独占配信中】

まとめ

弱みを見せることで、見知らぬ他の誰かの役に立ち、つながることもできる。『Untold: 極限のテニスコート』はいろんなことに気づかされる、良質なドキュメンタリー作品です。

今回の記事は「eo光チャンネル」で放送中の番組『Netflix Freaks』の連動企画。森上亜希子さんが語るこちらの動画もぜひ合わせてぜひご覧ください!


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