2022年アカデミー賞にノミネートされた、Netflix映画『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』。人気ミュージカル『RENT/レント』の作者、ジョナサン・ラーソンの実話を元にした映画ですが、芸能ライターで映画評論も執筆する田辺ユウキさんは「夢を諦めたい人におすすめ」といいます。それはなぜなのか? ミュージカルが苦手な人でも観やすいという『チック、チック…ブーン!』の魅力を語ってもらいました。
田辺ユウキ
大阪を拠点に芸能ライターとして活動。映画、お笑い、テレビ、アイドルなどの取材記事、考察記事を執筆している。 主な寄稿メディアは、Yahoo!ニュース、サイゾー、RealSound、Lmaga.jp、SPICE、文春オンライン、ほか。
目次
『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』のあらすじ
1990年のニューヨーク。ジョン(アンドリュー・ガーフィールド)はウェイターをしながらミュージカル作曲家としての成功を目指していた。音楽界の大物にミュージカルを披露するチャンスを得るジョンだが、なかなか曲ができない。芸能活動のステップアップを夢見る恋人のスーザン(アレクサンドラ・シップ)の相談にはなかなか乗れない。周囲の友人たちはエイズでどんどん命を失っていく。スーザンや親友マイケル(ロビン・デ・ヘスス)に支えられ、迫るタイムリミットの中でジョンは葛藤を続けていく。
『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』の魅力とは
『tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』は人気ミュージカル『RENT/レント』の作者、ジョナサン・ラーソンの実話を元にした映画。2022年アカデミー賞にノミネートされるなど高評価を受けていますが、その魅力は何なのでしょうか。芸能ライターで映画評論も書かれている田辺ユウキさんに訊いてみました。
「『チック、チック…ブーン!』はタイムリミットがテーマ。ジョンは30歳を目前に控えて曲が書けず焦ります。『ウエストサイド物語』のスティーブン・ソンドハイム、ビートルズ。みんな20代でブレイクしている。『チック、チック…ブーン!』というのは30歳の誕生日が迫る時限爆弾の音なわけです」
「ジョナサン・ラーソンは1996年の『レント』のオフ=ブロードウェイ公開初日未明に亡くなってしまう。彼は作品の大ヒットを見届けられなかった。『チック、チック…ブーン!』はその5年前が舞台。誰にだって『チック、チック…ブーン!』はあると思う。この作品はそういう人生の時限爆弾を描いてもいます。夢を追いかけている人や、諦めきれない人には必ず引っかかる部分があるはず。そして何よりミュージカルの演出も曲も素晴らしい」
ミュージカルが苦手な人にもおすすめな作り
『チック、チック…ブーン!』でメガホンを取ったのは、2021年のミュージカル『イン・ザ・ハイツ』で注目されたリン=マヌエル・ミランダ監督。ディズニー映画『ミラベルと魔法だらけの家』の音楽に抜擢されるなど実力・実績は確か。
ただミュージカルに苦手意識がある人もいます。そんな人でも楽しめるんでしょうか。
「ミュージカルが苦手な方って、突然歌が始まったりセットが変わったりするのに戸惑うのではないでしょうか。現実には起こり得ないし、共感しにくい。でも『チック、チック…ブーン!』では何気ない会話や日常のシーンからさり気なくミュージカルに変わっていくので、没入しやすいはずです。
僕が一番気に入ってるのはダイナーでのミュージカルシーン。ジョンは日銭を稼ぐためにウェイターのアルバイトをしているのですが、曲を書く期限が迫っていて、正直それどころではない。でもお客さんはひっきりなしにやって来る。日曜の朝早くから、家で食べられるものをなんでわざわざ食べに来るんだ? そんなジョンの独白からお客さんが歌ったり踊ったりするこのシーンはコミカルだし、多くの人が共感できそうなシチュエーション。『サンデー』という曲も素晴らしい。リン=マヌエル・ミランダ監督映画作品は初めてですが、この人じゃないと撮れなかったであろう、出色の出来です」
Apple Music、Spotifyなど音楽サブスクリプションでも『チック、チック…ブーン!』のサントラが配信中(2022年3月現在)。田辺さんいわく「歌詞が良いのでぜひ注目してほしい」とのこと。1曲目の爽快感溢れる『30/90』から引き込まれます。
『チック、チック…ブーン!』は夢を諦めたい人、諦めきれない人両方におすすめ
ジョンは締切に向け、壮大な設定のSFミュージカルづくりに奮闘しますが、実は日常にヒントが溢れていることに気がついていきます。
「ジョンは途中、自分を支えてくれた恋人とすれ違い、別れ話に。それでもやり直そうと二人は抱きしめ合いますが、ジョンは背中越しで楽器を弾くように指を動かしてしまう。『別れ話ですらミュージカルのネタにしようとしてるの!?』と彼女は怒る。ジョンは自分勝手だし、イライラしますよね(笑)。でも人間味にあふれていて憎めない。映画の主人公は自分勝手じゃなきゃいけない、ってつくづく思いました。ジョンの周りの人たちが鑑賞者の視点を代弁してくれるので、引き込まれるんです」
田辺さんは「『チック、チック…ブーン!』は夢を諦めたい人、諦めきれない人両方におすすめ」と言います。どういうことなのでしょうか?
「『チック、チック…ブーン!』には夢を諦める大切さが描かれている。ジョンの友人たちはどんどん夢を諦めたり、違う夢にしたりと落とし所を見つけていく。ジョンだけが必死に昔からの夢を追いかけています。
夢を追いかけるのはもちろん素敵なこと。でも現実では夢を諦めて違う仕事をする人が大多数ではないでしょうか」
「夢を諦めるのは決して悪いことではないはずです。例えばジョンの友人マイケルは俳優になりたかったけど、いろいろな事情があって諦める。就職した広告代理店は年収もすごく、充実した仕事をして、豊かに過ごせている。夢を諦めても、実は元々の夢より良い現実を過ごせている可能性がある。
一方で、それでも夢を諦められない人には、ジョンの姿は刺激になるはず。『チック、チック…ブーン!』は夢に向き合うきっかけを与えてくれる映画です」
田辺ユウキのおすすめNetflixプレイリストは韓国のゾンビもの3作
数多くの映画やドラマを観られる田辺さんに、この他にもおすすめのNetflix作品を教えてもらいました。
「最近はまっているのが韓国ドラマ『今、私たちの学校は…』です。この作品は突如出現したゾンビから教室に隠れて逃げるわけですが、この構図はそのまま『ジュラシック・パーク』なんです。他にも『ウォーキング・デッド』『新感染』シリーズなどゾンビ映画のオマージュが入っている。主人公たちがわざわざ身の上を語りすぎず、だんだん背景が分かっていく描写も良い。
あとはこれも韓国のゾンビもの『Sweet Home -俺と世界の絶望-』。マンションに閉じ込められる設定なのですが、これは韓国の社会事情が反映されている。1970年代に韓国では高層ビルの建築ラッシュになったんですが、現在では老朽化が社会問題になっています。発展の象徴が崩れていく、風刺が利いた作品です。
『#生きている』もそうなんですが、韓国のゾンビものは建物の中に閉じ込められるのがトレンドなんでしょうね。何かから抜け出したいメンタリティなのか、世相を反映しているようで興味深いです」
今回の記事は「eo光チャンネル」で放送中の番組『Netflix Freaks』の連動企画。こちらの動画もぜひ合わせてぜひご覧ください!
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