『流転の地球』地球ごと太陽系脱出!?超スケール中国SFに刮目せよ

流転の地球 メインビジュアル

劉慈欣(りゅう じきん/リウ・ツーシン)のSF小説『三体』は、2019年に日本で翻訳されベストセラーとなりました。Netflix映画『流転の地球』はその劉慈欣氏の短編小説が原作のSF超大作で、中国などで公開されるとすぐに大ヒット。とにかくスケールが大きな本作の魅力を、小説家・文筆家の海猫沢めろんさんが語ります。

『流転の地球』の巨大な想像力

生まれて初めて新幹線から富士山を見たとき、コップから表面張力で水がおちるようなしずかな心の動きがあった。感動というほどでもないが、ふっと鳥肌が立つ、気づきのような感覚——それはおそらく想像の額縁のなかに収まっていたものが、そこに収まりきらずに現実方向にはみだしてきた、畏怖に近いなにかだったと思う。
「流転の地球」には、久しぶりにそんなことを思い出させるスケールの大きさがある。

滅亡回避のため地球ごと太陽系外に移動。壮大すぎるストーリー

流転の地球 凍える人々

300年後に太陽に異変がおき、地球が滅びると判明した世界。人類は生き延びるために、ある計画を進める。「流転地球計画」——それは、重元素核融合で動く巨大な「地球エンジン」1万基を地球に装備して、地球まるごと、2500年かけて4.3光年離れたケンタウルス座の恒星へ移動するというとんでもない計画だ。

物語は計画開始後の世界から始まる。急激な環境変化のせいで、人類はマイナス70度の過酷な地上で暮らす者と、地下の人工都市に暮らす者に分かれているが、そのどちらも快適とはいえなかった。

整備工の少年リウ・チーはある日、地下の生活に嫌気がさし、偽造したIDカードで中学生の義理の妹ハン・ドゥオドゥオとともに地上へ脱出することを試みる。
時を同じくして、地球をナビゲートする宇宙ステーションが異変を察知する。「地球エンジン」のひとつが故障し、軌道のずれによって木星に衝突する危険性が高まっているというのだ。ちょうど任務を終えて17年ぶりに地球へ帰ろうとしていたリウ・チーの父リウ・ペイチアンは、命がけで起動修正しようとする。家族の絆と、人類の命運、その両方を守るために父と子のミッションがはじまる。

圧倒的な制作規模

流転の地球 兵士と乗組員

これまで数々のカタストロフ映画のなかで、なんども世界は滅亡の危機に瀕しては救われてきたが、本作はスケールがちがう。なにせ製作費が中国SF映画過去最高ともいわれているらしい。資金力に比例した圧倒的なビジュアルの力よ……。「地球エンジン」といわれても、そのあまりにもひねりのないネーミングからほとんどギャグにしか思えないのだが、ビジュアルで見せられると「で、でけえ! これが1万個あれば確かに地球動くかも……」と納得させられてしまう。正直、Netflixに入ってこれを見て映画代金(2000円くらい)トクしたな……とちょっと思ってしまった。

SF映画といえば、ハードになればなるほど専門用語やジャーゴン(※1)が飛び交い、それが醍醐味でもあるが、本作でよく出てくる単語は「ロッシュ限界」だ。ロッシュ限界とは「惑星や衛星が破壊されずにその主星に近づける限界の距離」のこと。『流転の地球』では地球が木星の潮汐力に強い影響を受けるなど緊迫したシーンで出てくる。覚えておこう。見終わったら日常でもカジュアルに使おう。「会社に近づくと身体がロッシュ限界を超えそうになるから辞表を出すぜ!」など、使いみちは無限だ。

※1 ジャーゴン……仲間うちだけに通じるような、ちんぷんかんぷんな言葉

流転の地球 ハン・ドゥオドゥオ

映画版は「流転地球計画」全体のほんのわずかな時間をとりだしたエピソードだが、原作もそれほど長くはない。ちょうどこの間、翻訳版が出た原作の『流浪地球』(著・劉慈欣/訳・大森望、古市雅子/KADOKAWA)を読んでみたが、中編くらいの長さの小説のなかで、ひとりの男が「流転地球計画」に人生を狂わされていくさまが描かれていた。ちなみにWikipediaを読むとあらすじが書いてあるので、絶対に読まないように釘を差しておく。「流転地球計画」のどんでんがえし的な要素を知って映画版を見るのと知らないで見るのはかなり印象が変わってしまうので……。

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中国SFに刮目せよ

ところで本作の原作者の劉慈欣といえば日本でも超話題のSF小説『三体』の作者でもある。『三体』は、私が人生で読んだ小説のなかで、確実にベスト5に入る面白さの本である。そのスケールのでかさたるや『流転の地球』を遥かに上回る。いままで読んだことがないくらいの壮大さなのだ。普段からフィクションに慣れていると、ちょっとやそっとでは驚かないが、ここまで予想をこえてくるとは思わなかった。その『三体』はNetflix版が2023年から配信が決定しているという。『流転の地球』を見て「こ、このスケールが映像化できるのか! すげえな!」と感動した身としては、かなり期待しつつ、公開が楽しみでしょうがない。きっと想像を超えたものが出てくるはず。

このような大きなスケールの物語が出てくるのは、中国という国の現在と無関係ではない。中国は今、高度成長と混乱のまっただなかにあり、良くも悪くもダイナミックに変化している。巨体を持て余して暴れるモビーディック(※2)のように、国際情勢の海のなかでもがきつづけながら、大国ならではの大きな想像力を発揮し続けている。

以前、中国の友人が「中国には『大きな国は大きな想像力を持っている。小さい国は小さい想像力しかない』という考え方がある……あんまりいい考え方じゃないけど」と複雑な顔で言っていた。そこにはプライドと国家に対する複雑な想いが混じっていたように思う。「流転の地球」は手放しに褒める人もいる一方で、本国では「愛国主義が強すぎる」という理由で難色を示す人がいることも確かだ。言われてみると確かにこの映画の物語は、個人が全体を守るために自己犠牲をいとわない精神性を身につけるビルドゥングスロマン(※3)のように見えなくもない。

しかしながら、それは中国に限った話ではない。『流転の地球』は思想とは無関係な部分で、もっと根本的な想像力の枠組みを広げてくれる作品だ。驚きとともに、このSFを鑑賞するだけでなにか忘れていたものが胸によみがえるはずだ。

※2 モビーディック……ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』に出てくる巨大な白いマッコウクジラのこと

※3 ビルドゥングスロマン……1人の人物の人格形成・成長過程をたどる教養小説のような形式一般

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