2023年1月19日よりNetflixにてNetflixシリーズ「伊藤潤二『マニアック』」が全世界配信されます。本作では日本ホラー界を牽引する漫画家・伊藤潤二の作品から、選りすぐりのエピソードがアニメ化されています。
今回は、2020年に沖縄を舞台にした『首里の馬』で芥川賞を受賞した高山羽根子さんがNetflix Freaksに登場! 伊藤潤二ファンの高山さんがインスピレーションを受けたというポイントを教えてもらいました。
※本記事にはNetflixシリーズ「伊藤潤二『マニアック』」のネタバレを含みます。
Netflixシリーズ 「伊藤潤二『マニアック』」とは
1986年に、働きながら描いた初投稿作『富江』が「第1回楳図かずお賞」佳作に入選し、鮮烈なデビューを飾った伊藤潤二。その後も、独創的な世界観で多くのファンを獲得し、いまや日本を代表するホラー漫画家として知られる伊藤潤二の世界がアニメーションで描かれます。
今回は、狂気・狂人をコンセプトに「首吊り気球」や「富江」「双一」シリーズなどから選定した全20タイトルを配信。三ツ矢雄二、梶裕貴、杉田智和、中川翔子ら豪華キャストがひと癖もふた癖もあるキャラクターたちに声をあてました。
作家・高山羽根子が語る伊藤潤二作品の“マニアック”な魅力
そんな馬鹿な!新感覚の恐怖
ーー今、高山さんがはまっているNetflix作品を教えてください。
すごくすごく独創的な短編ホラーアニメーション「伊藤潤二『マニアック』」です!
ーー高山さんは以前から伊藤潤二さんの大ファンだそうですね。どのような作品なのでしょうか。
もともと、私は伊藤さんの短編漫画が好きで、このアニメシリーズもとても楽しみにしていました。Netflixシリーズ「伊藤潤二『マニアック』」は、伊藤さんの有名な作品を1話完結のアニメーションとして描いています。
ファンの方なら絶対分かってくれると思うんですが、伊藤さんの作品ってすごく怖いけどそれだけじゃないんです。コミカルだったり幻想的な部分だったり「そんな馬鹿な!」って展開が待ち受けていたりするんです。
ーー小説家として活躍する高山さんが思う、伊藤さんが描く漫画の魅力とは?
先ほども言ったように、ギャー! って人を驚かせるような怖さはもちろんあるんですけど、本当にそれだけじゃなくて。例えば嫉妬心だったり、恐怖心だったり、プライドを崩された時の羞恥心だったり、そういう人間の心理を短い話の中にうまく練り込んでいるところがすごいなと思いますね。
ーー同じ作家として影響を受けている部分はありますか?
私自身も短編小説で賞をもらってデビューしたので、短編ホラーでデビューされた伊藤さんには、勝手に親近感を覚えていました。だから、参考にさせていただいているなんて言ったらおこがましいんですが、短編でありながら色んな面白い要素を散りばめて、ちゃんとオチまでつける構成なんかは見ていて学びがあります。
ーーそんな伊藤さんの作品を、アニメで観た感想はいかがでしたか。
基本的にこのアニメはストーリー自体、かなり原作に忠実なんです。「こんな話じゃなかったのに」って思うようないじられ方はしていなくて。だから、ファンの方もがっかりすることはないんじゃないかなって思います。
その上で原作ファンとしては、好きなキャラクターに色がついて、動いていて……という嬉しさがあります。漫画だと見開きで描かれるような迫力のあるコマが映像で観れるっていうのは、やっぱりファン冥利につきますね。
ーー怖がりには難しいでしょうか……。
そんなことはないと思いますよ! やっぱりアニメでカラーになったことで、原作よりもテンポの良さだったり、コミカルな部分だったりが強調されているので、伊藤さんの作品は気になってるけど怖そうだな……と躊躇している方がいれば、手始めにアニメから入ってみるのもありなんじゃないかなと思います。
意外と共感できる癖の強いキャラクターたち
ーー高山さんのお気に入りのキャラクターを教えてください。
王道中の王道なんですが、富江ですね。“魔性”と言ったら簡単なんですが、もっと複雑な要素を持った美女です。とても恐ろしい、といっても、人を直接痛めつけるような恐ろしさではなく、男性を魅了するんですが、それによって自分自身までもが酷い目に遭うという。
もちろん富江って美人でわがままで、男性からしたら狂わされてる感があるのかもしれないけど、私からしてみれば結構理不尽な目に遭ってる。ネタバレになってしまうんですが、富江はいつも死んでしまうんです。富江のことを好きになった人が各エピソードの主要人物を襲うんですが、なぜか最終的に富江が痛めつけられる。
だけど、最後は独創的な方法で復活して終わるというシリーズものになっていて、今回はその一つがアニメ化されています。
何回も見てると、大体何ページ目くらいで酷い目にあって、このページで復活する……みたいなことが分かってくるんですよね。それこそ水戸黄門みたいに、おなじみのシーンで「出たー!」って楽しんでます(笑)。
ーー怖いっていうのとはまた違うんですね。
もちろん怖いんだけど、例えば、ゾンビやジェイソンに襲われるようなのとは全く逆の恐ろしさがあって、それは伊藤さんの発明だと思いますね。
ーーちなみに、本日お召しになっているのも……。
あ、そうです! 海外のブランドと伊藤さんのコラボ商品で、富江の顔がプリントされたものです。せっかくの機会なので着て来ちゃいました(笑)。
ーー他にも好きなキャラクターがいらっしゃいますか?
富江と一二を争う人気の「双一」です。彼は今でいう、“コミュ障”。人と接するのが苦手で憎まれ口を叩いたり、人の不幸を喜んだり、ちょっとひねくれた男の子です。「双一」シリーズはコミカルでギャグとまではいかない面白さがあり、テンポがいいんですが、そこに双一のキャラクター性がよく活かされていると思います。
ーーすごい顔してますよね(笑)。
釘くわえてね(笑)。あれって、双一はすごく貧血体質なので、鉄分を補給するために咥えてるんですよ。その釘をシュッと吹き出して人を驚かせたり、お兄ちゃんがいないうちにその部屋を迷路のような作りにしたり、正気の沙汰ではないイタズラをする子なんです。
普通に考えると危ないし、気持ち悪いんですけど(笑)。でも、双一って優れた兄弟に対するコンプレックスだったり、兄弟と比べてくる両親への複雑な思いだったりを抱えていて、「分かるな」って部分があるキャラクターなんですよね。かなりデフォルメされてはいるけど、実は普通のホームドラマでも起きそうなことが描かれているんじゃないかなって思います。
特に短編のホラーって恐怖の方に偏って、人間の感情や意識を置き去りにされちゃうことがよくあると思うんですが、伊藤さんの作品はそういうことがないんです。中でも「双一」はそこがしっかり描かれているシリーズなんじゃないかと思います。
ーーそれぞれキャラが濃いんですね。
そうですね。富江や双一みたいに主人公でなくとも、クラスの端にいるようなモブと言われるキャラクターもへのへのもへじじゃなく、どっかしら観ている人が引っかかるように作られているなと思います。
創作者として刺激を受ける伊藤潤二の絵
ーーNetflixの作品で他にも夢中になったものはありますか?
2022年に一番ハマったのは、『最強! 野球団』ですね。韓国のすでに引退した名選手たちが集結したドリームチームみたいなのを作って、現役のアマチュア選手と対決する番組です。シリーズ化している洋ドラなんかも観てたんですけど、やっぱり全部見終わるのに何十時間。下手したら何百時間もかかってしまうので、そういう1時間、2時間で完結するドキュメンタリーを観るようになりました。
あとはNetflixシリーズ『ラブ、デス&ロボット』。この作品は海外の短編小説を1話あたり10分程度のアニメにしたシリーズです。色んな物語が楽しめるけど、シリーズとしてのテイストは共通している。そういう面白さは、今回の『マニアック』にも近いのかなって思います。
ーーそういうのを見て、刺激を受けることもあるのでしょうか。
ありますね。私自身は小説を書いてるんですけど、小説だけじゃなくて映画やアニメ、漫画からインスピレーションや刺激を受けることも多々あります。特に伊藤さんの絵は、見るだけで刺激になります。
ーー伊藤さんが描く絵の素晴らしさはどこにあると思われますか。
ごまかしていないっていうのかな。登場人物の表情や背景を含め、紙の上に描くべきことをすべて描いて、状況を説明しきっている構図が素晴らしい。もちろん、読者に「感じさせる」要素ももちろんあるんですが、誤解がないように描いている誠実な絵だと思います。伊藤さんの性格もあるかもしれないですが、やっぱりそれって技術力の高さなんじゃないかなと思います。
あとは見たらすぐに「伊藤さんの絵だ!」って分かるところ。それって一つの特殊能力だと思うし、すごく刺激を受けますね。だから、何かものを作っている人だったり、何かに刺激を受けたいなと思っている方にもぜひ観てほしい作品だなと思いました。
もちろん、純粋に怖いもの見たさでもいいです。物語としての怖さもあれば、ビジュアルの怖さもあったり、あとは人の感情に働きかけるような怖さや気持ち悪さなど、色んな恐ろしさを体感していただければと思います!
今回の記事は「eo光チャンネル」で放送中の番組『Netflix Freaks』の連動企画。こちらの動画もご覧いただき、高山羽根子さんの熱いプレゼンで作品の面白さをぜひ感じてください!
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