マーティン・スコセッシとは?人間心理を描く演出術と代表作

スコセッシ監督 メインビジュアル

アメリカ映画界を代表する監督として数々の名作を世に送り出してきたマーティン・スコセッシ。重厚なストーリーの映画からドキュメンタリーまで幅広く監督し、名作映画の復元事業も手がけるなど、その活躍は映画界に多大な功績を残しています。本記事ではスコセッシのフィルムワークや日本との関わり、代表作品について紹介します。

マーティン・スコセッシのこれまで

マーティン・スコセッシは1942年、アメリカ・ニューヨークでイタリア移民2世の両親のもとに誕生。少年時代は病弱で、外を走り回るよりも父親に連れて行ってもらう映画に熱中していました。将来はカトリックの司祭となるべく神学を学んでいましたが、ロックンロールを始めとする新しい時代のカルチャーの洗礼を受け、方向転換。ニューヨーク大学で映画を学び始めます。

1968年に『ドアをノックするのは誰?』で長編デビューを果たし、以降はコンスタントに監督作を発表。1976年にはロバート・デ・ニーロ主演の『タクシードライバー』 がカンヌ映画祭のパルムドールを獲得し、映画界に確固たる地位を築き上げます。その後も名声に甘んじることなく『レイジング・ブル』、『キング・オブ・コメディ』、『ケープ・フィアー』など、意欲作を次々と世に送り出しています。2000年代以降もレオナルド・ディカプリオとのコラボレーションや音楽関連のドキュメンタリーを手掛け、80歳を越えた2022年以降も新たな作品の発表が予定されています。

映画の伝統を受け継ぎ、開拓してきた演出術

少年時代から父とともに映画館に足繁く通っていたスコセッシは、ハリウッドやフランス、自身のルーツであるイタリアなど、さまざまな国の名作に触れ、映画への造詣を深めてきました。長回しやストップモーション、趣向をこらしたカット割りなど、スコセッシの映画に見られる手法の数々は、膨大な量の映画を吸収したことで生み出されたものといえるかもしれません。

またスコセッシが大学で映画を学んでいた1960年代前半は、フェリーニやカサヴェテスなど前衛的・実験的な手法を用いる監督が頭角を現してきており、大きな刺激となったようです。また、スコセッシは過去の名作映画をデジタル復元する取り組みも行っています。日本映画でも溝口健二の『雨月物語』の4K画質での修復を主導し、4Kデジタル復元版がリリースされました。

音楽とのかかわり

熱心なロックファンであるスコセッシは、さまざまなアーティストに帯同し、ライブの熱気やバックステージの様子をドキュメンタリー作品として発表してきました。中でも1978年The Bandの解散ライブを収めた『ラスト・ワルツ』は、ロック史上に残るドキュメンタリー映画として語り継がれています。近年ではThe Rolling Stonesのチャリティーライブを収録した『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』や元ビートルズのジョージ・ハリスンの生涯にスポットを当てた『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』などが話題になりました。

アメリカでテレビ放送されたブルースの歴史を追うドキュメンタリー『ザ・ブルース ムーヴィー・プロジェクト』ではシリーズの製作総指揮を務め、ヴィム・ベンダースやクリント・イーストウッドらと共に監督としても参加しています。また、マイケル・ジャクソン『Bad』のミュージックビデオでは、強盗と間違えられ黒人青年が私服警官に射殺されるという実話にもとづくドラマと合わせ、約18分のショートフィルムを作り上げています。

映画を通して学んだ日本文化へのリスペクト

スコセッシは日本映画にも大きな影響を受けています。大学時代には『豚と軍艦』をはじめとした今村昌平の作品に感銘を受け、他にも好きな日本映画監督として小林正樹や小津安二郎、成瀬巳喜男の名を挙げています。中でも黒澤明は名画座でむさぼるように鑑賞したというほど。1989年の『夢』では、黒澤直々の指名を受け、スコセッシがゴッホ役で出演しています。

2016年には遠藤周作の小説『沈黙』を映像化し、窪塚洋介や浅野忠信、イッセー尾形ら日本人俳優を起用。江戸時代初期の日本におけるキリシタンやポルトガル人宣教師の苦悩を描いています。同年の第29回東京国際映画祭では、日本映画を海外に広めた人物に贈られるSAMURAI 賞を受賞しました。スケジュールの都合でセレモニーには出席できませんでしたが、盟友・黒沢清が代理で賞を受け取り、自身もビデオレターで受賞の喜びを届けました。

スコセッシ作品に欠かせない2大俳優

ロバート・デ・ニーロ

ロバート・デ・ニーロは、1973年の『ミーン・ストリート』でスコセッシ映画に初めて出演。ハーヴェイ・カイテル演じるマフィア・チャーリーの親友で、粗暴なジョニー・ボーイを演じています。
1976年の『タクシードライバー』では狂気をはらんだ演技が高く評価され、以後もスコセッシ映画の常連としてギャングやコメディアン、予想屋など、幅広い役柄を演じています。中でも実在のボクサーであるジェイク・ラモッタを演じた1980年の『レイジング・ブル』では体重の大幅な増減など役作りにこだわり抜き、「デ・ニーロ・アプローチ」と呼ばれる演技スタイルを完成させています。
スコセッシの最新作で、現在制作中の『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』にも名を連ねています。

レオナルド・ディカプリオ

2000年代からスコセッシ組に参加し、今やマーティン・スコセッシ作品には欠かせないレギュラー俳優となっているレオナルド・ディカプリオ。
2人の出会いは1993年の主演作『ボーイズ・ライフ』で共演したデ・ニーロが、スコセッシに紹介したことに始まります。
2002年の『ギャング・オブ・ニューヨーク』で初めてスコセッシ作品に名を連ね、2023年公開予定の『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』ではデ・ニーロとの共演が実現。さらにはノンフィクション小説『The Wager: A Tale of Shipwreck, Mutiny, and Murder(原題)』の映画化で7度目のタッグを組むことが伝えられ、大きな期待がかかっています。

これだけは押さえておきたいマーティン・スコセッシの代表作5選

スコセッシ監督 映画館イメージ

『タクシードライバー』

1976年作。ベトナム戦争から帰還し、タクシードライバーとして働く青年・トラヴィスが心を病んで狂気に駆り立てられる様子を描いています。戦争で疲弊した当時のアメリカを映し出すようにトラヴィスの孤独や社会の荒廃を描いた本作は、スコセッシとデ・ニーロの代表作に。カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞し、アメリカン・ニューシネマ後期を象徴する1作とも言われています。本作で用いられた演出やキャラクター造形は映画界に大きな影響を与えました。トラヴィスが着用していたMA-1ジャケットは現在に至るまで定番のファッションアイテムとして広く愛用されています。

『レイジング・ブル』

1980年作。1940〜50年代に活躍した実在のプロボクサー、ジェイク・ラモッタの自伝をモノクロで映像化。自らの信念を貫くジェイクはマフィアの仕組んだ八百長試合に翻弄されるなど周囲との衝突が絶えません。妻子ある身でありながら少女との不倫に走り、親友を傷つけるなど劇中での行動が痛々しさを感じさせます。主演のデ・ニーロは、ボクサー時代の引き締まった肉体から引退後にコメディアンとなり、ふくよかになったジェイクの姿を作り上げるため27kgもの増量を敢行。その役作りは作品に大きな説得力をもたらし、第53回アカデミー賞をはじめ、数多くの映画賞を獲得しました。

『グッドフェローズ』

1990年作。アメリカに実在したギャング、ヘンリー・ヒルを題材にしたノンフィクション小説が原作。少年時代から裏社会に足を踏み入れ、密売、違法賭博など数々の犯罪を重ねていくヒルは、1968年と1978年に仲間たちと起こした現金強奪事件で大金を手にします。しかし、これがきっかけとなり所属する組織から追われることに。ギャングたちの転落を淡々と描くことでドキュメンタリーのような作風を打ち出し、アメリカでは『ゴッドファーザー』に次ぐギャング映画の重要作とされています。第63回アカデミー賞ではヒルの同僚を演じたジョー・ペシが助演男優賞を獲得しています。

『ディパーテッド』

2006年作。香港映画の大ヒット作『インファナル・アフェア』シリーズのリメイクで、レオナルド・ディカプリオにとって3作目のスコセッシ映画となります。ボストンを舞台にギャングに潜入した警察官、警察に潜入したギャングがそれぞれの任務を遂行する様子がスリリングに描かれています。ディカプリオは警察から裏社会に潜入するビリー・コスティガンを演じ、マット・デイモンやジャック・ニコルソンらと名演を繰り広げています。原作のストーリーを踏襲しながらもスコセッシ流の演出により、オリジナリティあふれる作風を展開。第79回アカデミー賞ではスコセッシにとって初となる監督賞を受賞しました。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

2013年作。原作はウォール街でカリスマ的な株式ブローカーとして名を馳せたジョーダン・ベルフォートの回想録。本作はシリアスなイメージが多いスコセッシ作品には珍しいコメディで、ディカプリオがベルフォートの生き様を痛快に演じています。学歴もコネもないベルフォートが実力で巨万の富を築き上げ、転落する様子をハイテンションに描き、株や金融の知識がなくても楽しめる一大エンターテインメント作品に仕上げられています。本作での体当たりの演技が評価され、ディカプリオはゴールデングローブ賞のコメディ/ミュージカル部門で主演男優賞を受賞しています。

Netflixオリジナルの作品も配信中

Netflixでは、スコセッシ監督によるオリジナル作品を配信中。

アイリッシュマン

元軍人のフランク・シーランは、20世紀、悪名高い人物たちの傍らで動いていた暗殺者。数十年が描き出される本作品では、彼の視点で第二次世界大戦後のアメリカ裏社会が語られます。組織犯罪に関わり陪審員買収の罪で有罪判決を受けたボス、全米最強の労働組合委員長ジミー・ホッファの謎に包まれた失踪事件が描かれると共に、内部事情、主導権争い、政権とのつながりといった闇の面にも焦点が当てられます。マーティン・スコセッシが監督を務める「アイリッシュマン」には、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシらが出演します。

Netflix映画「アイリッシュマン」独占配信中

都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-

スコセッシ監督 フラン・レボウイッツとの1枚

批評家でありエッセイストであるフラン・レボウィッツの長年の友人であるマーティン・スコセッシが監督。彼が熟知する街へのウィットも散りばめた「都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-」は、レボウィッツやスコセッシのようにこの街を心から愛する人々にとって歓喜と憤怒、承認の苦しみを呼び起こすニューヨークの姿を存分に伝えます。

Netflixシリーズ「都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-」

ローリング・サンダー・レヴュー: マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説

1975年秋に行ったツアーで、当時激動の時代を迎えていたアメリカ社会を奮い立たせる音楽パフォーマンスを披露したボブ・ディラン。映画界の巨匠マーティン・スコセッシが贈る『ローリング・サンダー・レヴュー: マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』は、ドキュメンタリー、ライブ映像、そして熱狂的な夢が織り交ざった異色の大作です。

Netflix映画「ローリング・サンダー・レヴュー: マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説」独占配信中

まとめ

半世紀以上もの間、意欲的に作品を作り続けているスコセッシ。大作と並行して自らの世界を追求する姿勢は映画界に大きな影響を与え、エンターテインメント業界における映画の発展を支えてきました。現在、公開を控えている作品を含め、今後の動向にも大きな注目が集まります。


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