ついにライアン・ジョンソン監督のミステリー映画『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』が、2022年12月23日からNetflixで全世界に向けて配信開始されました。本作は『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019年公開)の主人公、名探偵ブノワ・ブランが再び活躍し、新たな謎に挑む物語です。
タイトルに『ナイブズ・アウト』が冠されているものの、前作とは舞台も登場人物らも繋がりはなく、ブランただ1人が共通しているだけ。本来ならば「名探偵ブラン」シリーズとすべきかもですが、大ヒットした前作の名前は多くの人が新たな興奮に出会うきっかけとなっているはず。
『ナイブズ・アウト』に続く名探偵ブノワ・ブラン第2作
Netflix映画『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』主演は『007』シリーズで6代目ジェームズ・ボンド役を務めたダニエル・クレイグ。それが今では「『ナイブズ・アウト』の主演で知られる〜」に変わったと言えるほど、前作の出来映えもクレイグの好演も素晴らしいものでした。
前作『ナイブズ・アウト』が話題を呼んだのは、まずオールスターの豪華すぎる顔ぶれ。『アベンジャーズ』シリーズで完全無欠のヒーロー(キャプテン・アメリカ)を演じたクリス・エヴァンスが、やさぐれた放蕩息子として登場した衝撃といったら。さらには『ジャンゴ 繋がれざる者』のドン・ジョンソンや『ハロウィン』のジェーミー・リー・カーティスが“家族”となり、全員が全員とも犯行の動機あり。
最初は「他の映画で見たスター達」に惹かれて観たつもりが、それぞれの圧倒的な演技力、先の見えない展開、真犯人そして遺産のゆくえは……と手に汗握るばかり。そして結末にいたる頃には、名探偵の役割を果たしつつも、あまりに人間くさいブランに魅了されてしまったのです。
古典的な「絶海の孤島」に集まった現代的なキャラクターたち
新作のNetflix映画『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』は、そんな王道のフーダニット(誰が犯人か)にしてジョンソン監督が続投する第2弾。名探偵が新たな舞台と謎に挑む連作という構成は、まさにジョンソン監督が敬愛するアガサ・クリスティの名探偵ポアロシリーズを思わせるものです。
前作が「大豪邸の主が不審な死を遂げ、ワケありの家族たちが思わせぶりに暗躍」だったのに対して、今作は「世界的なパンデミックのさなか、億万長者が持つ島に友人達が招かれる」という舞台設定です。外界から隔絶された環境、いわゆる「クローズド・サークル」であり、古典的ミステリーの王道。アガサ作品にも『そして誰もいなくなった』という、まさに「絶海の孤島」の傑作があります。
この島に到着して最初に目にするのは、ガラスでできた巨大な玉ねぎ型のドームです。前作でも無数のナイフが突き出たオブジェが印象的でしたが、いきなり「グラス・オニオン(ガラス製の玉ねぎ)」というタイトルを回収している上に、ビジュアル的にも豪華にして不穏な予感をはらんでいる。ミステリー映画にとって命の「壮大な雰囲気作り」に大いに貢献しているのです。
そんなクラシックな舞台のなか、登場人物たちはすこぶる現代的なキャラクターばかり。普通の主婦だったが、今や米上院議員にも立候補している女性の州知事。ファッション誌の最年少編集長だがとある事件で自粛中の元ファッションモデル。かつてTwitch初の100万フォロワーを達成したものの常に銃を所持する性差別ぎみの動画配信者、新たな燃料を研究している科学者といった顔ぶれ。
これらを演じているのが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のドラックス役で知られるデイヴ・バウティスタや『マトリックス レザレクションズ』のジェシカ・ヘンウィック、『ワンダヴィジョン』の怪演が記憶に新しいキャスリーン・ハーンなど、主演クラスが勢ぞろい。よくミステリードラマで「俳優のランクで真犯人が分かる」といわれますが、その意味で全く先が読めません。
そんな一癖あるゲスト達を孤島に招いたのは、巨大ハイテク企業の共同創業者で億万長者のマイルズ・ブロン。そのキャストはエドワード・ノートン、『ファイトクラブ』から『インクレディブル・ハルク』まで幅広い演技力に定評のある名優です。希代の天才か、それとも全てが虚飾なのか? 実在のハイテク大富豪を思わせる振る舞いや言動は生々しくもあり、目が釘付けです。
マイルズに恩のある州知事や動画配信者、元編集長や科学者らは、この場にいても当然のこと。しかしマイルズと因縁のある元共同創業者のカサンドラまで招かれており、空気は一気に険悪なムードに。なにしろ、招かれたテーマが「殺人ミステリーゲーム」をやること(実際には人は殺されず、何ごともなく終わる予定だった)なのですから、ピリピリするのも当然。
さらにその場に、マイルズに招待されていないはずのブランが登場。前作に続き、またしても「正体不明の依頼者に招かれた名探偵」となります。古典的なミステリーの舞台に現代的な真犯人の候補たち、何かを隠しているIT系億万長者、ますますブラン役が板に付いたクレイグの存在感、これほどワクワクする映画の幕開けはまれではないでしょうか。