今こそ観るべきNetflix傑作映画『西部戦線異状なし』

西部戦線異状なし メインビジュアル

Netflix『西部戦線異状なし』はエドワード・ベルガー監督による戦争映画。第一次世界大戦の西部戦線で戦う若きドイツ軍兵士パウルが主人公です。1928年のエリッヒ・マリア・レマルクによる小説が原作で、1930年にルイス・マイルストン監督により映画化され、アカデミー賞を受賞しています。2022年のNetflix版ははじめてドイツ人監督・キャストでの映画化となり、ドラマ性を省いた演出がより戦争の残酷さを浮き彫りにしています。本作の魅力を作家・海猫沢めろんさんが語ります。
※本記事には『西部戦線異状なし』のネタバレが含まれています。

20年前に知った『西部戦線異状なし』原作小説

20年前くらいに、戦争映画が好きな年上の友人と暮らしていたことがある。
新高円寺の安アパートの2階にある8畳の部屋で、それを2人で分割して住んでいたのだが、彼の陣地には大きめのテレビと5.1CHの音響設備が整っていた。彼は1日1回、「プライベート・ライアン」の冒頭、ノルマンディー上陸作戦で人が死にまくるシーンを爆音で鑑賞する趣味があった。
「この臨場感……耳元で飛び交う銃弾……爆音。最高だな」
仕事に疲れ、死んだ魚のような目でそう言い、畳の上でジャックダニエルを舐める姿は戦争帰りの傭兵のようでカッコ良かった。

僕はミリタリー趣味がまったくないものの、立体音響のアトラクションみたいで楽しかったので「音がでかいっすね」と言って、毎日それに付き合った。
部屋の本棚にはハヤカワの海外SFや文学が並んでおり、ニートだった僕は昼間それをぼーっと読んで暮らしていたのだが、そのなかに新潮文庫の『西部戦線異状なし』という小説が混じっているのを見つけた。

『西部戦線異状なし』タイトルの意味

西部戦線異状なし 瓦礫の中に立つ兵士

『西部戦線異状なし』は1929年にドイツで出版された戦争小説で、題名通り、ドイツ軍と連合国軍による第一次世界大戦の激戦区「西部戦線」を舞台にした作品だ。
なにも知らずに読みはじめて、戦争の背後にあるドラマの濃厚さと、部屋の効きづらいクーラーと猛暑のせいで読後になんだか気分が悪くなったのを覚えている。

主人公が戦死した日の司令部報告が「西部戦線異状なし、報告すべき件なし」——完璧な伏線回収だ。
当然ながら家には映画版『西部戦線異状なし』のDVDも並んでいたわけだが、途中で引っ越したので、それは見なかった。
そんなわけで、今回のNetflix『西部戦線異状なし』が、初映画版鑑賞となったのだが、映像の美しさと、起きていることの悲惨さの落差に、小説版とは違った衝撃を受けた。

Netflix版の美しく淡々とした描写と、原作との大きな違い

本作は、これまで二度映画化されているが、両方ともアメリカでの製作だった。原作がドイツ人によるドイツ軍の話であることを考えると、ドイツ監督とドイツキャストによる今回のNetflix版への期待は高かったようだ。

西部戦線異状なし 朝もやの中前進する兵士たち

映画が始まって最初に目を奪われるのは、朝靄にけぶる夜明け前の藍色の空だ。
霧に包まれた静謐(せいひつ)な木立に、雨が落ちる。森のなかで身を寄せ合って眠る狐たちの1匹が、遠くから聞こえる雷の音に耳を澄ましていると、曇天を仰ぐカメラが反転し上空から地面をとらえる。灰色の砂に横たわる兵士たちの死体は、土をえぐる銃弾の音に反応することはない。銃声、爆音、塹壕でうごめく人々。殺される兵士。鼓膜を削るような重低音。場面は戦場から工場へ。兵士たちからはぎとられた軍服を縫う、機関銃のようなミシンの音、重低音を強調した劇伴。走る車。1917年春、ドイツ北部、戦争3年目。美しい街並みのなか、石畳を自転車でくだる学生。そこに、戦場の混沌は感じられない。

西部戦線異状なし 身体検査を受けるパウル

全編を貫くのは限りなくドラマを排した上での、静と動のコントラストである。映画なので、最低限筋書きはあるにはあるが、それにしても原作に比べるとかなり淡泊なのである。

鑑賞後に原作を知っている人が一番気になるのは、タイトル伏線回収ともいうべき、司令部報告「西部戦線異状なし、報告すべき件なし」のシーンがない点だろう。

主人公の死すらとるにたらないものになる戦争を描く

本作では、主人公パウルは終戦のわずか数秒前に背後から敵に刺し殺されてしまう。
無機質な報告書で死が処理される原作に比べると、その死がドラマチックに演出されているように思える。

しかし、本当にそうだろうか?

確かに映画を見ている我々からはそう見える。しかし、画面内でパウルの死に対峙した敵兵は、死にゆく彼を一瞥(いちべつ)しただけで立ち去ってしまう。映画鑑賞者から見るとドラマチックなはずの死が、画面内では、とるにたらないひとつの死として描かれているのだ。

このラストシーンと対比されるのが、少し前に配置された、塹壕の中で主人公が敵兵をナイフで殺すシーンだ。パウルは何度ナイフで刺しても動き続ける瀕死の敵兵と2人きりでいるうちに情が芽生え、相手が人間であるというあたりまえのことに気づく。
視聴者と画面内の人物たちとの温度差は、他国の戦争をメディアを通してしか消費しない我々への今的な批評にもなっている。

西部戦線異状なし 銃を構えるパウル

最後にもう1点、主人公がまったく成長しないことも印象的だった。
パウルはただ戦争に翻弄されているだけで、過酷な状況も軍隊経験も彼を成長させはしない。なにもわからないまま、なにもできずに死んでいく。成長も、感動も、友情も、なにひとつその手には残らない。
本作はそんな無情さを、神ならぬ無機質なカメラの目で撮り続ける。
感動すべきではないはずのものに感動してしまう、そんな人間の愚かさのようにこの映画は美しい。


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