『ミッドナイト・ゴスペル』はサイケなアニメ×podcast×思想の衝撃作

ミッドナイトゴスペル メインビジュアル

カラフルでポップでサイケデリック、幻覚を見るよう……『ミッドナイト・ゴスペル』を評する声はさまざまですが、よくNetflixのおすすめ作品として語られることが多いアニメシリーズです。『ミッドナイト・ゴスペル』の特殊性、面白さを作家・海猫沢めろんさんが語ります。作品を観始める前の副読本として、ぜひ読んでください。

『ミッドナイト・ゴスペル』は「わけがわからない」が最初の感想

ミッドナイトゴスペル 喜ぶクランシー

「わけがわからない……」
それが「ミッドナイトゴスペル」を最初に見たときの感想だった。
Netflixで発表されてすぐ、だれかの「これはすごい」というつぶやきを見て視聴したのだが……原色がまぶされた過剰にサイケな映像と適当すぎるキャラ造形、ストーリーはほぼあってないようなもので、「ヴィレッジヴァンガードで売ってる外国のサイケな駄菓子みたいだ……」と心でつぶやき、そっと画面を閉じた。
『サウスパーク』とか『シンプソンズ』とかアメリカのアニメがあんまり得意じゃないから、やっぱ相性ってあるよなあ……なんて思っていたある日、たまたま漫画家の山田玲司が本作を詳しく解説している動画を見た。

山田玲司のただごとではないテンションに圧倒されつつ、己の不明を恥じた。解説されると、これはたしかにすごい気がしてきた。
すごいのだが……しかし。
やっぱり初見でこのすごさがわかる人は少ないと思われる。
予備知識なしで見ても、面白い人がいるかもしれないが、最初にサブテキストを知っていたほうがより楽しみ方がわかると思うので、まずそこを説明する。

生死についてインタビューするpodcastを宇宙が舞台のサイケなアニメに

本作は、「アドベンチャー・タイム」で知られるカートゥーンアニメ監督、ペンデルトン・ウォードによる全8話、一話30分の短編作品だ。「アドベンチャー・タイム」はゲーム化されているので、そっちで知った人もいるかもしれない。アメリカのアニメ専門チャンネルである「カートゥーン ネットワーク・スタジオ」で放送され、人気を博したコメディである。

「ミッドナイトゴスペル」の物語は非常にシンプルだ。「スペースキャスター」(宇宙版ポッドキャスターのインタビュアー)の主人公クランシーが、並行宇宙に移動するシミュレーターでパラレルワールドへ行き、そこにいる人にインタビューする——これだけである。
インタビュー内容は一貫している。

ミッドナイトゴスペル クランシーと死神

「人はなぜ死ぬのか? 私とは何なのか?」
この根本的ともいうべき問題をひたすら追い求める。
いやいや……ちょっとまて、なんでそんなディープな話題をこんなサイケなアニメにしなきゃいけないんだ? と思った人がほとんどだろう。実はこれ、主に3つの要素を寄せ集めて作られたコラージュのような作品なのだ。

要素1:ポッドキャスト

そもそも本作の音声は、ダンカン・トラッセルというコメディアンが配信している『Duncan Trussell Family Hour』という、インタビュー形式のポッドキャストからとられている。インタビューを聴いたペンデルトンが、これをアニメーションにすることを思いついたらしい。主人公のクランシーを演じているのが、このトラッセルだ。
もとのポッドキャストは500エピソードくらいあるので、そこから厳選されたものという形だ。選ばれたのは、依存症の専門家、宗教的テーマを扱う作家などどれもディープな人生を送ってきた人々だ。

要素2:アニメーション

ミッドナイトゴスペル マッチョなクランシーと大統領

第1話「王の味」で、主人公はいきなりマッチョなアバターにのりうつって、ゾンビが蔓延する世界を訪れ、そこにいたこの世界の大統領と薬物依存について話し合う。
最初に見た時は、ドラッグと薬物依存とゾンビのイメージはなんとなく近いので、「まあこういうものかな」と思ったが、ポッドキャストが元ネタと分かれば、音声のイメージに合わせたコラージュ的な映像なのか、とあまり考えずに見られた。2話以降も、こうした手法がとられる。
ところが最終話だけ、少し妙なのだ。8話目「銀のねずみ」のゲストは、クランシー役のトラッセルの母親だ。

ミッドナイトゴスペル クランシーと母親

この回だけがものすごく素朴に見えるのは、これまでとはちがい、主人公と母親という誰もが理解しやすい関係性になっているからというのもある。そして、この母が実社会でステージ4のガンを患っていることがわかると、本作はがぜん異様なリアリティを帯びてくる(実際に、この取材の3週間後に彼女は他界している)。

要素3:思想

このように2つの要素をからめて作られた本作だが、最終話まで見るとこれがあきらかに一つの意図をもってコラージュされた、ひとつなぎの作品であることがわかる。
本作全体を通して監督が考えているのは「人はなぜ死ぬのか? 私とは何なのか?」だ。これに対して提示されるキーワードは、

「ジャスト・ビー・ヒア・ナウ」(今ここに存在する)だ。

ビーヒアナウといえばオアシスの3ndアルバム……じゃなくて、60sのヒッピーカルチャーのバイブルであり、スティーブ・ジョブズも影響を受けたという、ラム・ダスによる西洋人向けの東洋思想の実践本『ビー・ヒア・ナウ—心の扉をひらく本』である。本書は思想書であると同時に、半分以上は実践の方法が書かれた具体的な修行書だった。この修業がたどり着く先が、禅の境地にも似た、まさに「ジャスト・ビー・ヒア・ナウ」(今ここに存在する)だ。
ところでこの言葉。どこかで耳にしたことがないだろうか?

ミッドナイトゴスペル クランシーと母親

「いまここ」のみに集中するマインドフルネスの思想を思い出すかもしれないが、そりゃそうだ。そのマインドフルネスの源流となる思想をひろめたのがまさにラム・ダスなのだから。
この作品はあらゆる宗教が行ってきた「伝道」の現代バージョンなのだ。そう考えるとタイトルの意味も腑に落ちる。マインドフルから程遠いインターネットとNetflixという荒野に降り立った孤高の伝道師が歌う福音、それがこの作品なのだ。

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