ここ数年のうちに、急速に耳にすることが増えた「ドルビーアトモス」という言葉。それは「イマーシブ(没入型)サウンド」すなわち立体音響技術の1つであり、映画館からホームシアター、さらにはAppleのAirPodsなどワイヤレスイヤホンにも広く普及している方式です。
ドルビーアトモスの概要や成り立ち、楽しみ方などについて解説します。
ドルビーステレオからドルビーアトモスまでの歩み
ドルビーアトモスの「アトモス(ATMOS)」とは英語のatmosphere(雰囲気)の略で、3次元の空気感や雰囲気までも再現し、音に包み込まれるような体験を目指しているようです。
では、なぜ「ドルビー」アトモスなのか? それはドルビーラボラトリーズという企業が開発した技術だからです。もともとドルビー社(略称)の出発点は、音楽レコーディングでのノイズリダクション、つまり「ノイズを減らす」製品でした。
まず業務用の技術が開発され、それを元に簡略化した家庭用の技術が誕生。カセットテープにも採用され、ステレオラジカセやウォークマンにも搭載されて「ドルビー」のロゴが付いたものです。こうしてドルビーの技術は、基本的に「業務用で実力を認められ、次いで家庭用にも普及」という道をたどることになります。
その一方でドルビー社は、1970年代半ばに映画館向けの「ドルビーステレオ」技術を開発。これが同社のサラウンド技術、つまり「視聴者を包み込むような音響」の原点となります。
それ以前の映画音響にもサラウンド技術はありましたが、1977年の『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』にこの技術が採用されたときは、臨場感あふれるサウンドが観客らを驚かせたものでした。この2作が大ヒットしたことから、サラウンド技術を導入する映画館が急激に増え、それ以降の映画もドルビーステレオに対応する流れができたのです。
ちなみに1999年の『スター・ウォーズ エピソード1』は「ドルビーステレオ」の発展形である「ドルビーデジタルサラウンドEX」を初採用しています。「スター・ウォーズ」シリーズとドルビーの映画音響技術は、手に手を取って進化したといえそうです。
チャンネルベースからオブジェクトベースへ
こうした映画のサラウンド音響を、家庭でも楽しめるようにしたのが「ドルビーサラウンド」であり、DVDやBlu-rayなどデジタル時代に対応したものが「ドルビーデジタル」です。最初のドルビーデジタルは5.1ch、つまり「5つのスピーカーと重低音専用のサブウーファー」に対応。そしてドルビーデジタルプラスやドルビーTrueHDは7.1chと、進化するにつれてスピーカーが増えていきました。
もしも音響のリアルを追求するのであれば、スピーカーは多ければ多いほどいい。人間が生きるのは3次元空間ですから、映像のなかで「実際に音が出ている場所」にスピーカーがあれば現実に近づきます。が、映画館でも無限に増やすわけにはいかず、ましてホームシアターなら6〜8個でも置く場所がない、ということもあるでしょう。
そこで、従来の「チャンネルベース」から「オブジェクトベース」へと発想を転換し、その画期的な技術の1つがドルビーアトモスなのです。
チャンネルベースとは?
チャンネルベースとは、音の出口(チャンネル)=スピーカー数に合わせた音響技術のこと。固定されたスピーカーがあることを前提として、あらかじめ作成された音声信号を送って再生させるものです。
オブジェクトベースとは?
これに対してオブジェクトベースとは、仮想空間の中にオブジェクト(音源)を配置するという発想です。要はコンピュータ・グラフィックス(CG)の「光源」を「音源」に置き換えたアプローチです。
CGではバーチャル空間に光源を置き、モノにどう光が当たるかを計算し、グラフィックを生成します。それと同じように、仮想空間の中にある音源からの音が、中心にいる人の耳にどう聞こえるかを演算してリアリティある音を再現するわけです。
具体的にはオブジェクトには音声+3次元(xyz軸)の位置情報が持たされており、それを再生機器が受け取って演算します。3DCGのゲームで操作に合わせて画像が表示されるように、ドルビーアトモスも音を「レンダリング」して生成し、実際にはスピーカーがない場所からも、観客には「そこから音が出ている」ように錯覚させられるのです。
このレンダリング処理は、ホームシアターならAVアンプが、AirPodsなどのワイヤレスイヤホンでは内蔵チップが担当します。音は映像よりはデータ量が少なく、複雑な処理は必要はないとはいえ、現代の進化したマイクロプロセッサの演算能力があればこそ、なのです。
オブジェクトベースのメリット
1.コンテンツ制作者が対応しやすい
オブジェクトベースのメリットは、1つにはスピーカー数の増加にコンテンツ制作者が対応しやすいことです。
5.1chサラウンドなら計6個、7.1chでも8個で済みますが、ドルビーアトモスは最大64chに対応しています。チャンネルベースであれば、それだけの数の信号を用意する必要があり、サウンド制作の労力も大変なことになります。またデータ量も膨れあがり、記録メディア容量の圧迫やデータ圧縮技術の限界にも突き当たりかねかせん。
しかしオブジェクトベースであれば、音声+位置情報の指定のみ。どのスピーカーで鳴らすかは、映画館なり音響システム任せとなり、コンテンツ制作者の労力も抑えられるわけです。
2.前後・左右に加え、音の「高さ」を表現できる
もう1つ、より根本的なメリットは、「高さ」が表現できることです。これまでのサラウンド方式は、5.1chの場合は音の動きを「左から右」、7.1chではスピーカーが左右の後ろに追加されたことで「右から左後ろ」あるいは「左から左後ろ、そして右後ろ」などが表現できました。が、やはり2次元の平面に留まっていた格好です。
それがオブジェクトベースでは、平面のxy軸+高さのz軸により、サウンドは前後左右プラス上にも広がることになりました。たとえばヘリコプターが頭上を飛び去る、雨が上から降ってくる、人が階段を駆け下りてくるなど。本当にその場にいるような臨場感が高まり、文字通りサラウンドの次元が1つ上がったのです。
もっとも、立体音響技術の全てがオブジェクトベースというわけではありません。たとえば「Auro-3D」はチャンネルベースであり、定められたスピーカー配置に合わせて音声信号を送り込む方式です。様々なスピーカー配置に対応できるオブジェクトベースのような柔軟性はありませんが、レンダリング処理の負担がないため音源の情報量を増やしやすく、作り込まれたサウンドを再生できる良さがあります。
ドルビーアトモスは「映画館からAirPodsまで」の幅広さ
ざっくり言えば、ドルビーアトモス(に代表されるオブジェクトベース一般)は「上にスピーカーを追加する」考え方です。実際に対応している映画館では、客席の天井にスピーカーがぶら下げられ、上に位置してる音は物理的にも上で再生されています。
しかし、ご家庭ではそうはいかないでしょう。すでにホームシアター環境を持っている人でも天井にスピーカーを吊すことはなかなかに難しいですし、ましてゼロからシステムを構築していくのはハードルが高いものがあります。
そこで、「再生機器側でレンダリングして、それぞれのスピーカーに音を振り分ける」オブジェクトベースの手法が活きてくるのです。
ドルビーアトモス対応のテレビやサウンドバーがあれば、スピーカーの数が少なくとも、頭上にスピーカーがなくても、人の耳に立体的に聞こえるように音を処理してくれる。また、ドルビーアトモスを基礎としたAppleの「空間オーディオ」では、AirPodsのようなワイヤレスイヤホンで立体音響が楽しめる上に、頭の動きを追跡して音の向きが変わる「ダイナミックヘッドトラッキング」もサポートされています。
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本格的な音響システムを備えた映画館から、耳に入れるだけのワイヤレスイヤホンまで。幅広い応用範囲で、いつでもどこでも「音に包まれる」体験を提供できる柔軟さこそが、ドルビーアトモスの最大の強みかもしれません。
NetflixでもUHD 4Kをサポートしているプラン(最上級のプレミアム)に加入している場合は、ドルビーアトモス音響を楽しむことができます。対応している作品は、説明の横に「ATMOS」のアイコンが付いており、すぐに判別できます。
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「ドルビーアトモス」で検索すれば該当作品が探せますが、そこには『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や『イカゲーム』といった人気ドラマシリーズもバッチリ含まれています。ドルビーアトモスに対応したシステムや機器をお持ちの方は、映像と音響の両方で深く没入してみてはどうでしょう。
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