2025年10月17日配信開始のNetflix映画『グッドニュース』は日本発の「よど号」ハイジャック事件を題材にした、韓国制作のブラックコメディ、サスペンス映画です。
名優ソル・ギョングが主演、若手俳優のホン・ギョンが重要な役柄を演じ、日本からは山田孝之、椎名桔平、笠松将など豪華俳優が名を連ねます。
ハイジャック犯は操縦士・乗務員と乗客131人を人質に北朝鮮の平壌(ピョンヤン)空港へ向かおうとしますが、飛行機は韓国・金浦(きんぽ)空港になぜか着陸。実はその裏では北朝鮮と韓国の管制官による熾烈(しれつ)な電波ジャック競争、両国の裏方の人々による努力がありました。
調べると驚くほど史実に基づく部分が多い『グッドニュース』。55年以上前のことを舞台にした笑いとドキドキ感を楽しめる映画ですが、現代に繋がる問題を扱ってもいます。タイトルの意味が分かった瞬間、しみじみすると同時に、組織の在り方や責任のとり方について深く考えさせられました。
目次
『グッドニュース』のあらすじ
折しも大阪万博がまさに開催されるという1970年3月15日、東京・駒込。共産主義連盟・赤軍派の議長・山本(永山瑛太/モデルは塩見孝也)が逮捕される。山本が「H・J」と書いたメモの意味を警察は問い詰めるが、謎は解明できない。
その半月後、1970年3月31日に赤軍派グループが羽田発福岡(板付)空港行きの日本航空351便「はる号」をハイジャック(H・J)。日本刀や銃・爆弾で乗組員と乗客をおどし、北朝鮮・平壌へ向かわせる。途中、機長の機転で福岡に一度降りるも、日本政府が有効な対策を打つ前に飛行機は飛び立ってしまう。
乗客を無事に降ろし、事件を解決できるのか。北朝鮮へ向かおうとする「はる号」とこの事件を知った韓国政府による命で、謎のフィクサー・アムゲ(某氏)が動き出す。
無謀な計画に挑んだハイジャック犯と、裏で動き回った人々
当時も今も日本と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)には国交がなく、航空機と地上にいる管制官が通信するための周波数も共有されていません。犯人たちはそのことを知らず、管制からの指示がなければ平壌に行けるはずはないので、元より無謀な計画でした。
ただ福岡での日本政府の対策は有効打に欠け、結局「はる」号は平壌へ飛び立つことに。韓国政府にはアメリカや日本・北朝鮮・ソ連(現ロシア連邦)をめぐる思惑があり、アメリカが開発した管制システムを唯一使える管制官、ソ・ゴミョンに「はる」号との通信を命令。韓国の金浦空港を平壌空港に擬装し、着陸させようとします。
『グッドニュース』に出てきた、ウソのような本当の史実
『グッドニュース』冒頭で紹介される「1970年当時の日本の空港には保安検査がなかった」という事実だけでもびっくりします(「よど号」事件を機に実現された)。
さらに『グッドニュース』に出てくる以下の内容も、事実であったようです。
- ハイジャック犯には当時16歳の高校生もいた
- 福岡で機長が北朝鮮までの航空地図を頼むと中学校の教科書の地図が渡された
- 韓国が金浦空港を急ピッチで平壌空港に擬装した
- 韓国と北朝鮮の管制官が電波を数秒の差でジャックした
- 擬装に関してあるアフリカ系アメリカ人の存在が重要になった
いろいろな文献をあたると、韓国人初のRAPCON(レーダー進入管制官)とされるチェ・ヒソク氏が『グッドニュース』のソ・ゴミョン中尉のように上層部の指示で金浦空港を平壌と偽り、日航機を誘導した記載があります。
ただ2006年、韓国政府は公開文書の中で「よど号」の金浦空港への着陸は「『よど号』石田機長による意志によるもの」と記載。当の石田機長は同年、亡くなる数カ月前の時事通信のインタビューでこの見解を否定しています。
名前のない登場人物たちと「責任をどう取るのか?」をめぐる話
真実は『グッドニュース』で語られるように、分かりません。
ある人物が「名前がなくても我々は存在するし、人に認められなくても意味はある」と映画の中で語りますが、「名前がある」のがこの作品では重要なテーマ。
登場人物の多くは「隊長」「閣下」「監督」と役職で語られ、作中で明確にフルネームで名前を呼ばれるのはゴミョン中尉、石田運輸政務次官、久保機長、前田副操縦士と最終的に責任をとった人たちが目につきます。
管制官ソ・ゴミョン(高名)という命名もそういった意図があるのでしょう。ゴミョン中尉は不遇だった父の代わりに名を上げたいと思っています。一方で、その英雄的行為は国の事情により、世に知られることはありません。
主人公のアムゲ(某氏)も恐らく名前を奪われた存在。正体不明ですが情報部に弱みを握られているようで、北朝鮮と繋がる過去があるようです。一番の立役者(企画者)である彼はフィクションの存在と思われ、もちろん誰にも評価されることはありません。
大仕事の裏には見えない努力がある。一方で、上の立場の人々は責任を取らず、目的が達成されれば何事もなかったかのように毎日が進行していく。『グッドニュース』はどこの国や組織にもありうるそんなおかしさを風刺した映画だといえるでしょう。
なぜ『あしたのジョー』か?
ちなみにハイジャック犯のリーダー(隊長)が「我々は『あしたのジョー』である」と演説しますが、1970年前後の学生運動に身を投じた若者たちは1967~1973年まで『週刊少年マガジン』(講談社)に連載された漫画『あしたのジョー』(梶原一騎、ちばてつや)に共感していたそうです。実際に「隊長」のモデルである田宮高麿も日記にこの一説を記していたとのこと。
『グッドニュース』の中で、漫画の最後で激戦を終えたジョーが死んだのか、生きているのかで見解が分かれるシーンがあります。実際には「燃え尽きた」だけで死が明言されているわけではない(ライバルの力石徹は亡くなった)のですが、『グッドニュース』では真偽不明で意見が分かれていく象徴として引用されているのでしょう。
『グッドニュース』のキャスト
『グッドニュース』には韓国や日本を代表する俳優が多数登場しています。冒頭の永山瑛太をはじめ、西村まさ彦や佐野史郎、橋爪功などベテラン俳優が揃っていて、観ていて安心感があります。個人的にはソル・ギョングの表情の変化にしびれました。山田孝之が昭和の熱血漢らしいすごみを全身から出していたのと、椎名桔平の渋さが良かったです。
アムゲ(ソル・ギョング)
アムゲ(某氏/写真中央)は名前のない人物。韓国中央情報部の命を受け、暗躍し金浦空港の擬装や人質交換の手はずを整えていきます。
アムゲ役のソル・ギョングは韓国を代表する俳優の一人。『ペパーミント・キャンディー』『シルミド』『力道山』Netflix映画『キル・ボクスン』などに出演。
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ソ・ゴミョン(ホン・ギョン)
ソ・ゴミョン中尉は韓国で初めてアメリカ航空局の管制官の免許を取得したエリート。ハイジャック犯との交渉の矢面に立たされていきます。モデルは前述のチェ・ヒソク氏。
ゴミョン役のホン・ギョンは『潔白』ドラマ『あなたが眠っている間に』Netflixシリーズ『D.P.-脱走兵追跡官-』に出演する若手俳優。
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パク・サンヒョン(リュ・スンボム)
パク・サンヒョン(写真左から2番目)はアムゲに事件の解決を依頼する中央情報部部長。陽気なようで、ときに手段を選ばない冷酷さもあわせ持ちます。
サンヒョン役は『ベルリンファイル』『人間の時間』などに出演する俳優リュ・スンボム。
石田真一(山田孝之)
石田真一は事件の解決に奔走する運輸政務次官(現在の国土交通省の政務官や副大臣)。モデルは山村新治郎運輸政務次官(当時)。山村政務次官の行動は日本でも反響があり、『身代わり新治郎』などの歌も出されたほど。
石田政務次官を演じるのは、実力派俳優・山田孝之。ドラマ『ウォーターボーイズ』『世界の中心で、愛をさけぶ』で注目を浴び、『勇者ヨシヒコ』シリーズ、『凶悪』『何者』『正体』などの映画、Netflixシリーズ『全裸監督』、『忍びの家 House of Ninjas』、『グラスハート』などひっぱりだこの人気俳優です。
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久保隆弘(椎名桔平)
久保隆弘は日本航空「はる号」の機長。もうすぐ飛行時間1万時間突破というところでハイジャックに遭ってしまいますが、機転を効かせて乗客の安全を考えて行動します。モデルは日本航空の元パイロット、石田信二機長。
久保機長役の椎名桔平は『コードブルー』シリーズなどのドラマや『溺れる魚』『アウトレイジ』など数々の作品に出演するベテラン俳優。
前田聖午(キム・ソンオ)
前田副操縦士は久保機長とともに「はる号」を操縦、管制塔との通信を主に担当。韓国籍から日本国籍を取得している設定で、茶目っ気のある人物です。モデルは日本航空の元パイロット、江崎悌一氏と思われます。
前田副操縦士役のキム・ソンオは『甘い人生』『アジョシ』『ソウルの春』などに出演する韓国の俳優。
隊長:デンジ(笠松将)
隊長(デンジ)はハイジャック犯のリーダー。世界的な革命を起こす準備のため、北朝鮮に行こうとします。モデルは赤軍派の政治局員だった田宮高麿。
隊長を演じるのは俳優・笠松将。ドラマ『君と世界が終わる日に』Netflixシリーズ『全裸監督2』などに出演。NHK朝の連続テレビ小説『らんまん』の幸吉役でも有名。
赤軍派・女性の幹部:アスカ(山本奈衣瑠)
隊長とともにハイジャック犯を仕切る赤軍派の女性幹部(アスカ)を演じるのは俳優の山本奈衣瑠。映画『猫は逃げた』『SUPER HAPPY FOREVER』『夜のまにまに』などに出演しています。
まとめ
ピョン・ソンヒョン監督によるNetflix映画『グッドニュース』は豪華俳優による演技が見事で、ブラックコメディとして楽しめます。
「よど号」事件に着想を得たフィクションでありつつ、要所要所にウソのような事実が混じっています(逆も然り)。「よど号」事件はあまりなじみがない方が多いかもしれませんが、その後の拉致問題などにも繋がっており、現代にもかかわる事件。
今回の記事の内容を踏まえて見ていただくとより楽しめるはずです。ぜひチェックしてみてください。
・参考文献
島田滋敏『「よど号」事件最後の謎を解く 対策本部事務局長の回想』(草思社文庫)
保阪正康『「檄文」の日本近現代史』(朝日新書)
第63回国会衆議院本会議議事録
日経ビジネス電子版(2016年6月1日)
『デイリー新潮』(2024年3月22日)
などより
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